トヨタ期間従業員に行こう

トヨタ自動車期間従業員であった筆者が期間工、派遣社員、非正規社員についてや雇用の問題そして1年間にわたる失業生活、その後のタクシー運転手としての日々なんかをぬるめに書いています。

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福島
Yはボクといい仲だった時でも、たまにほかの男とホテルに行っていた。それがボクの知人の知人だったりするもんだから、知るところなったりしたんだけれど、そのことを咎めることをしなかったのは、ボクがYを幸せにする自信も勇気も、なによりもそんな重大な責任なんてことについて考えはしなかったからなんだ。そのことがボクたちの別離の原因になったとは思っていないのだけれど、今では、嫉妬とか悋気は愛情の裏側にあるものだから、なにがあっても平気でいられるボクに、きっと愛想が尽きたんだろうなあ、なんて思う。

そのことをおばさんに(実のオバではなくて、ボクたちがあの頃そう呼んでいた歳上の女性なんだけれど)「下手じゃないの」なんて下ネタで返された。確かに肌が合う合わないってことはあるにしても、じゃあYは何をボクに求めていたんだろうか?

そんな昔のことをぼーっと考えていたら、赤羽を過ぎ、電車は埼玉に入っていた。ボク少し眠っていて、その間にあの赤い靴の女の人二人ともいなくなっていた。彼女たちは知り合いでも何でもなくて、たまたま同じ列車に隣り合わせた他人だったのだ。赤い靴が今年の流行りなんだろか。黒い靴だと特になにも思わなかったに決まっている。

埼玉、東京から東に行ったことがなかったのだから、今回が初めてになる。初めてなんだけれど、暗くなった風景はそこがどこであろうと同じだし、乗客の言語がいきなり変わるってこともないので、ボクは相変わらずいつもの風景の中にいた。ああ、これが旅なんだろうか?そう思った。

宇都宮で乗り換えて、黒磯でもう一度、そして福島にやってきた。少しだけ降っていた。それでも傘を買うというほどでもなかった。 福島駅前は少しだけ陰気に、ボクには写った。雨がそうさせたのだろう。そしてコンビニの店員のみょうにゆっくりとした、そして低い声が、そうさせたのだろう。

フクシマからは遠い。遠いのだけれど「除染」なんて張り紙があったりすると、一瞬ドキリとする。安全とか安全でないとかそういった類のものではなくて、ボクたちの犯した罪への羞恥心いたいなもの、例えば隠し事がバレたときのような、そんな「ドキリ」という感覚になってしまう。

ボクたちは共犯者だ。なにも東電だけが悪いんじゃない。あの時の政府を含めた処理の仕方に問題があったとしても、それまでボクたちは諸手を挙げて原子力に賛成していたし、経済ゲームに異議を唱えることなく参加していた。そして信じた通り豊かになった。フクシマは違ったけれど。

だからどうだってことではないし、なにか結論付けるつもりじゃないんだけれど、フクシマを考えることは、たぶん、ボクたちを考えることに繋がると思うんだ。なぜ働かなければならないとか、どうすればこの惑星を延命できるかとか。

きっと、泣いたり笑ったり怒ったりなんてことが生きる上でとても重要だと思うから。その中には嫉妬なんてことも含まれるんだけれど。

ホテル福島ヒルズにたどり着いた。コンビニで買ったビールを飲んだら一気に眠くなった。長い長い一日だった。赤い靴とYの白い肌がまぶたに浮かんだ。

芭蕉翁と曽良 福島駅前
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